てくなべ (tekunabe)

ansible / network automation / 学習メモ

JANOG50 Meeting in Hakodate 参加・登壇レポート

はじめに

2022/07/13-15 に北海道函館市で開催(オンラインとハイブリッド)された JANOG50 Meeting in Hakodate に参加しました。

2020年1月に札幌で開催された JANOG 45以来、久々に現地参加させていただきました。

また、ご縁があって「ネットワーク自動化に必要なデータとその管理方法と活用方法とは?」というプログラムで共同登壇もさせていただきました。

資料は公開されているので、気になったプログラムがあればリンク先から詳細をご覧いただければと思います。動画のアーカイブはしばらくは公開予定とのことです。

当日参加したプログラムや登壇したプログラム、全体的な所感についてレポートします。


■ 参加プログラム

運用を変化しながら継続していくための8つの極意

www.janog.gr.jp

自社のクラウドサービス(NEC Cloud IaaS)の運用を通じて得られた8つの極意が紹介されていました。

特に印象に残った点がいくつもありました。

まず、ポイント2の自動化について。自動化したことを見える化することによって、他チームの状況を知れるようにしたそうです。おもしろいなと思いました。事例を共有することによって、もっと自分たちもやるぞと刺激を受けたり、あの作業が自動化できたなら自分たちのこの作業も自動化できそうだ、といった気づきが得られるのだと思います。

次に、ポイント5のWikiです。ドキュメントを書いても見つからない、見られない状態では意味がないため、とにかくwikiに運用ルールに書き出すことにより探しやすい状態にし、「Wikiを見て」を口癖にして定着をはかったそうです。

私見ですが、WikiはページごとにURLが作られるため、リンクの共有によって参照してもらいやすい状況を作れる特徴があると思います。Wikiに限らずWebに書き込むものの共通でしょうか。一方、大きなドキュメントの中のとある箇所を参照してもらうのはなかな難しく、埋もれがちな気がします。URLは便利です。

他、口癖というのはとてもおもしろいもので、文化を形成する要素の一つだと思います。口癖が文化をつくるのか、文化が口癖をつくるのか、どっちもありそうです。

ポイント7の教育も私が関心がある点です。

最後の方(資料P27)で、8つの極意をさらっと「IT」「プロセス」「人」に分類されていたのですが、バランスとれていて改めて参考になりました。

質疑応答では、たとえば以下のようなやり取りがありました。

  • [Q] 自動化はブラックボックスになりやすいが、どうやって変化に追従すするか?
    • [A] 一人でやらず、チームでやっている
  • [Q] 教育されてる側のモチベーションの工夫は?
    • [A] 自分たちが楽に、という観点にしている

私自身は、現在運用者というわけではないですが、生の運用者の声や考えには今後もアンテナをはっていきたいと思いました。

貴重な知見のご発表ありがとうございました。

スプリンターネット

スプリンターネットという言葉は、初めて聞いた言葉でした。インターネットの分断のことを指すそうです。ウクライナ紛争の話も交え、インターネットが普及した世界での戦争で何が起こるか、などの話がされました。

以下、特に印象に残ったことをまとめます。

  • フィルターバブル、エコーチェンバー
  • いろんなレイヤーで分断し得る
    • ビジネス、制度、技術
  • インターネットは復元力が高い
  • 善人にとって素晴らしいものは、悪人にとっては超素晴らしい
  • 物理の戦争は戦士同士が戦い、市民は巻き込まない
    • 一方、インターネットではどこからでも攻めることができるし、どこからでも被弾してしまう(論理的に)

お恥ずかしながら、私自身はほとんど考えてこられてなかった分野です。現実社会において、インターネットはどういう役割なのか、どういう位置づけなのか、今一度考えたいと思いました。

ネットワーク自動化の対応チャレンジ

www.janog.gr.jp

セイコーソリューションズさんのコンソールサーバーである SmartCS を、自動化に対応させるための数年間の取り組みについて話をされていました。

大きく分けて、Ansible 対応と REST API 対応の2つ。

Ansible 対応については、既存のエコシステムにのせた配布形態がとてもいいと思いました。具体的には、Ansible Galaxy や Automation Hub によるコレクションの配布です。基本的に、コマンド一発で必要な機能をインストールできます。Ansible 本体へのバージョン追従も大変かもしれませんが、エコシステムにのっていれば素早く利用できるのはとてもメリットだと思います。

もし、申請フォームを入入して、圧縮ファイルがダウンロードして、という流れだとなかなか億劫になってしまうような気もしますので・・。

REST API 対応については、さらに自動化への組み込みやすさを向上させる取り組みだと感じました。

P29からの苦労話は大変興味深かったです。案1: CLI ベースと、案2: URI + Method ベースの2案があり、利用者目線で案2を採用したそうです。

開発者目線では案1のほうが楽だったと思います。案1 だとデーター形式はいじらず、CLI over API といったイメージでしょうか。私自身はこの発表を聞くまでそう思っていました。

利用者としては、たしかに 案2: URI + Method が便利かと思います。

内部実装としては、JSON を返す仕組みが意外でした。CLI 出力の内容を JSON に変換というかたちではなく、REST API からうけたリクエストをもとに内部DBから、既存のモジュールを通じて JSON を生成、とのことでした。

全体的に、想像以上に工夫し、想像以上に苦労されているのだなと言うことが認識できました。

「主機能は何かを忘れてはいけない」という言葉も印象的でした。

NETCON Wrap-up

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今回は環境面での問題が発生してしまったそうで、その点についても共有されていました。時間に限りがある仲での対処も大変だったと思いますが、Meeting 期間中にこのように資料にまとめて、発表まで至っている素早さすごいなと思いました。

インスタンス作成の API を非同期で利用していて、ステータスコード 200 が返ってきた時点で OK としていたが、API としては無事に受付ができたという意味であって、無事にインスタンスが作成できていたわけではない、ということでした。非同期は難しいですね。

他、優勝者へのインタビューがあったのですが、普段はISPでお客様サポート(コールセンターのオペレーター)をされている方でした。 お客様に回答するにあたって、調査を担当するNOCからの情報をきちんと理解するために勉強を重ねてこられているそうです。素敵な姿勢だなと思いました。

参加者アンケートでは、全員が次回も参加したいと回答し、根強い人気が示されました。

オープンマイク

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今回の JANAOG の参加者の、登録時のアンケートの共有や、JANOG のあり方などの議論がされました。

現地参加登録 1772 名、リモート参加登録 1240 名、とかなり多くの参加者がいたようです。特に現地参加、多いですね。実際、とても賑わっていました。

初参加が4割もいらっしゃったそうです。参加のきっかけは人づてが最も多いそうです。Webサイトや SNS など、いろいろサービスがあるなかで、人のつながりもとても大きいものなのだなと改めて感じました。

ほか、名刺交換というイベントが発生しました。

「初参加の人と手を上げてください。その周りにいる人、いま名刺交換をしてください。」

こういうのは本当に現地ならではですね。後述もしますが、現地に集まることはきっかけをつくる貴重な場なのだと思いました。


■ 登壇プログラム

ネットワーク自動化に必要なデータとその管理方法と活用方法とは?

ジュニパーネットワークスの塚本さん、DMM.comの大山さんとともに、共同登壇させていただいたプログラムはこちらです。

www.janog.gr.jp

事前にインタビューを受けて、ニュースレターとして公開もしていただきました。

www.janog.gr.jp

これまでも JANOG では、自動化についての議論がたびたびされてきました。一方で、自動化には、対象デバイスや設定する情報(インターフェース、IPアドレス、VLAN IDなど)が必要です。これらの情報をどう管理していけばよいか、どのような活用方法があるのかと観点の議論は多くありませんでした。今回はここにフォーカスをあてました。

過去には JANOG45 で近いプログラム「インフラの運用を楽にする情報管理 ~我々のベストプラクティスはこれだ!~」がありました。その発表をされた大山さんに、運用者として発表に加わっていただきたいと思いお声がけさせていただいたという経緯です。

横地パート: 自動化とデータ管理

まず私のパートでは、そもそも自動化とデータ管理がどのような関係かをまとめました。

  • 自動化は素直であり、インプットが誤っていると誤った結果を招く
  • そのため、基盤として正しいデータ管理が必要

という点を述べました。

また、私自身が直接関わったわけではありませんが、NetBox(DCIM/IPAM)の導入事例として、以下の記事をご紹介しました。既存のスプレッドシートをまず正規化したという点が参考になりました。

creators.oisix.co.jp

NetBox のでもサイトは https://demo.netbox.dev/ です。具体的にデータが入っているので使い方のイメージがわきやすいと思います。データ登録もできますが、定期的にデータがリセットされます。

塚本さんパート: SSoTの活⽤ 編 -Intent-based networking による ⾃動化 & 診断 -

塚本さんのパートでは、データ管理の応用的な話をしていただきました。SSoT(Single Source of Truth)や、IBN(Intent-Based Networking)など、考え方としてとても有用な話だと思います。プロダクトとしては Apstra が取り上げられていて、SSoT がただの入れものにとどまらず、設定や状態診断に利用される世界観が先進的に感じました。

Intent、つまり意図を定義しておき、それ通りに設定がなされるという点では、宣言的という見方もできるのではないかと思います。

大山さんパート: SSoT への道 ~過去・未来・そして現状~

大山さんのパートでは、ここ数年のデータ管理の分散や多重管理などの課題への取り組みについて、実例をお話いただきました。このプログラムに運用者の話を入れたかったため、お話いただけてとてもありがたく思っています。

情報が正しく「管理」されている、とはとういうことかがP13でまとめられていました。管理、管理とよくいってしまいますが、認識統一のためにこのように定義付けしておくのは良いなと思いました。

- 情報が保存・取得できる状態が保たれている
- 保存された情報の整合性が保たれている
- 保存された情報に対する適切な権限が保たれている

このケースでは、自分たちは何が課題で何を解決したいかを見定めた上で、当時は自分たちツール AirOne を開発されたそうです。 現在では、活用も進んでいているそうです。

「用途・運用毎にビューをカスタマイズ」というのは、データをきちんと定義したからならではの応用だと思いました。

部署や担当によって見たいデータが異なるでしょうし、個別にデータとビューをセットで作っていたら効率が良くないでしょうね。

ディスカッション

ディスカッションでは、大山さんのパートへの質問が多くありました。

AirOneについて、SSoT側から機器を設定できだけでなく、逆に機器から上を取ってきて SSoT 側に反映するしくみもあるようだが、この場合機器がマスターになってしまってるいのではないか、というコメントがありました。これはあくまで、実情報を管理情報の間違いを正したい、というユースケースだということでした。すべてを一元管理するのではく、特性に応じて実情報を正とする領域、管理情報を正とする領域をそれぞれ分散管理してるものを整合性を取るというアプローチのようでした。

他、SSoT の Single がどの範囲で Single であればよいのか、組織ごとに SSoT があればいいのでは(多少にダブりがあっても)という点でもコメントがありました。

なお、私にご質問いただいた、NetBox のコミュニティの話はいまだになんのことか思出せていません・・・。なにか巻き込みを大きくする働きかけの案があったような気もするのですが・・。

プログラム詳細ページでは、期間限定でアーカイブも公開されています。ぜひご覧いただければと思います。

今回は貴重な機会をいただき、ありがとうございました。今後もこのテーマの話が JANOG などで出てくるといいなと思います。


アーカイブ視聴予定

当日は参加できなかったのですが、アーカイブが公開されているうちに以下のプログラムを視聴しようと思います。


■ その他

プログラムの内容以外の感想などです。

人と会うこと

久々の現地参加だったので、久々にお会いできた方が多くて嬉しかったです。

やはり合ったついでに色々話すという体験はありがたいものです。

ネットで繋がりのある方がほとんどですが、文字にしにくかったり、そのためだけに時間とってリモートで話すというほどでもない場合は、このように「ついで話」できる機会は良いものだなと思いました。

貸切電車!

貸切電車

なんと、会場までの貸切電車が用意されていました。

外や車内には関係各社の広告があり、JANOG 一色といった感じでした。

車内の広告

このように、会場だけでなく、地域に JANOG が滲み出てる景色はなんだか好きです。

質問は現地優先

LT 以外の各プログラの最後は質疑応答、ディスカッションの時間が設けられています。

現地の方はマイクに並んで、リモート参加の方はZoomの挙手ボタンを押すという形でした。現地優先なので、この点も現地参加のメリットなのかなと思いました。

時間の関係もあり、リモートからの質問があったケースは、私が参加した中ではほとんどありませんでした。


おわりに

開催直前で感染者数が増えてきて、懇親会の中止など変化がありました。関係者みなさんは、たびたび苦しい決断を迫られたのだと思います。 無事に開催ができて嬉しく思います。ありがとうございました。

参加された方でアンケートがまだの方はぜひこちらから! JANOG50ミーティングアンケート JANOG50 Meeting

次回 JANO5G1 Meeting は 2023年1月に山梨県富士吉田市で開催予定です。

近年の開催のたびに思うところではありますが、世の中が落ち着き、安心して現地で開催できる状態になっていることを願っています。

参考

togetter

show int さんの動画

www.youtube.com

[2022/08/31 追記]

www.youtube.com

私と JANOG