はじめに
2023/07/05-07 に長崎県長崎市で開催(現地とオンラインのハイブリッド)された JANOG52 Meeting にオンラインで参加しました。現地も盛り上がって、コロナ禍まえに徐々に戻ってきているみたいでしたね。
本記事では、当日参加したプログラム、現時点でアーカイブ拝聴したプログラムや、全体的な所感についてレポートします。
なお、各プログラムの詳細ページから資料や、アーカイブ動画が見れます。アーカイブ動画は 2023/08/18 18:00 まで の公開です。
■ Day1
全国キャリア網の耐障害設計で、OSS使ってシミュレーションしたら爆速で切り分けられた件
大規模で複雑なネットワークの管理において、想定経路の作図に時間がかかったり書かなくなってしまったりなどの課題。
そこで、ルーターのコンフィグからメトリック情報を取得して経路を描画したり、障害時の迂回経路を確認したりするツールをOSSでつくったそうです。また、Traceroute の結果の経路を描画する機能もあるそうです。
使われているOSSと用途は以下のとおりでした。
- textfsm: 設計段階のコンフィグをパースしてメトリックなどを抽出
- neo4j: OSPFの離接関係をグラフDB化
- Cytoscape.js: 経路の描画
私も以前、Traceroute の可視化については、Cytoscape.js で簡易的なものデモ用途を作ったことがありました。また、neo4j のようなグラフDBもネットワークのトポロジ描画と相性が良さそうだなと思っていました。なので、とても興味深く拝聴しました。
資料のPDFではLTでは紹介されなかった、より詳細な参考スライドが掲載されています。P18 の「可視化の工夫」がおもしろかったです。自動描画はノードの位置が定まりにくいという課題を、ホスト名規則として位置情報を埋め込で位置決めに利用するというアイディアでした。
可視化、重要ですね。
新人のためのインターネット&ネットワーク超入門
アーカイブ(YouTube 概要欄にチャプターリンクあり): www.youtube.com
Day1 (7/5) の3時間枠という特別な枠です。私は残念ながら都合がつかず参加できませんでしたが、現地の会場と YouTube Live のハイブリッドな形式での開催でした。
後日の Slack の書き込みによると、98.2% の方が「面白い or すごく面白い」という感想で、大変好評だった様子です。後日、私もアーカイブを拝見しました。
ネットワークの入門というと、TCP/IP などを中心にしたプロトコルの話や、ルーターへの設定方法などが扱われることが多いです。一方で本セッションでは、インターネットがどういう機器や組織で成り立っているのか、世界のケーブルはどのように繋がっているのか、人の営みとトラフィックはどのような関係があるか、などが扱われています。学校の科目に例えると、インターネットにおける「社会」といっていいかもしれません。面白かったので、社内にも共有しました。
私自身は、ネットワークエンジニアとしては主にデータセンターに携わっていました。逆に ISP、IX、ピアリングあたりは業務として携われていないので、こういった話が聞けるのはありがたく思います。
show int さんは、これまでも動画を投稿されていますが、さまざまなかたちで情報発信を継続されているのが素晴らしいなと思います。良い時代だなぁと思います。
■ Day3
ハッカソン Wrap-up
JANOG のハッカソンはネットワーク運用に関する課題を解決するための、短期集中開発イベント。プログラムの裏で開催されていました。
Wrap-up では、ハッカソンの流れや提供される環境についての説明と、Winnerチームからの成果物の発表がありました。
環境は、EVE-NG や containerlab をチーム単位で提供され、NOSは Cisco CSR1000v、XRd、VyOS、Arista vEOS/cEOS、OSS SONiC が提供されていたそうです.この手の開発は、まずネットワーク環境を用意するのが序盤の大きな壁となり、ここでつまずいてしまうと開発に時間が取れなくなってしまいます。なので、ここまで充実した環境が提供されるのは参加者にとってありがたいだろうなと思いました。
containerlab については 前回のJANOG 51 で紹介されたプログラムがあったので、資料を見直しました。
今回は計22名、5チームの参加。組織の枠を超えて一つものを作り上げる機会は貴重ですね。同じ会社から複数名参加していても、やりたいことが違うから別のチームに分かれたということもあったそうです。それから、やはりオフラインでやるのは色々とはかどるとのこと。
Winner チームは「eXchangeしようぜ」で、テーマは「トポロジ図可視化」。人類の永遠の課題のようなものでしょうか。
解決方法は、Ansible で LLDP の情報を取得して inet-hengeでとトポロジ図を自動生成、NetBox による構成管理。LLDP で取得できる情報のうち、インターフェース名やホスト名を採用して JSON に加工してるそうです。この JSON をもとにして inet-henge や NetBox に渡すという流れです。@codeoutさんの inet-henge、よく使われていますね。
このような仕組みは、実機を正とするか、構成管理DBを正とするか、によって技術的なアプローチも異なってきますが、今回は実機を正とした考え方のようです。
質疑応答の中では、実際に商用環境に導入するには、まず LLDP を有効にするところから始めないといけないという話がありました。確かに、無効化しているところも多いような気がしています。もし、複数台の機器に LLDP を有効化してこうとなったら、それこそ Ansible が利用できるかなと思います(arista.eos.eos_lldp
などの専用モジュールあり)。
チーム内の分業やチームビルディングの話も興味深かったです。普段一緒に業務をしていない人を含むチームで分業を成立するには、自分が何ができるか、何をしたいかをきちんと表明する必要があるのだろうなと思いました。
NW自動化開発 × アジャイル/スクラム開発 〜理想と現実の間で〜
ネットワーク自動化の開発を進めるうえでスクラムを採用し、その採用理由や、よくなったことや悩んでいることなどについての発表でした。
変化が激しいなかたで色々なことをやらないといけない状況で、プロジェクトにつき一人のPMのチーム編成では限界があり、すがる思いでスクラムを採用したそうです。結果としては、以下の点で、ネットワーク自動化との親和性は高かったとのことです。
- 要件の変化に迅速に通住するため
- 早くリリースして、OPEX を効果的に削減するため
- ネットワークも開発もできるメンバーとなると自然と少数精鋭でやることになる
私がかなり印象的に感じたのは、よくなったこととしてあげられていた「開発のスピードと品質があがった」という点です。
スピードと品質は、昔は相反する要素として語られることが多かった気がしますが、そうではなく最近ではスピードをあげたからこそ品質があがるという論調も強くなってきている感覚があります。
開発のスピードと品質があがった点が興味深い、とJANOG Slack に書いたところ、登壇者ご本人から補足説明いただきました。このからくりとしては、スピードを上げるとレビューする時間がとれて品質が上がっている、とのことでした。フィードバックサイクルの速さと軽さが重要なのだと感じました。とてもよい体験談をお伺いできありがたく思いました。「質とスピード」や、リーン関連の話を思い出しました。
受託開発として興味深かったのは、質疑応答でお話されていた以下の点です(要約)。
- アジャイルでやっていることは、お客さんに伝える場合と伝えない場合がある。お客さん自体がスクラムっぽい動きをしている場合は伝える。契約自体は請負。
- お客さんをプロダクトオーナーにする説もあったが、プロダクトーオーナーと開発チームの間に受発注の関係があってはいけない。なので、お客さんの要望を受けとるプロダクトオーナーを社内におく
また、内容とは関係ないのですが、スライドが全般的にきれいで見やすいなと思っていました。デザイナーの方に協力してもらったそうです。最後のほうで資材スライドとデザイナーさんが手がけた仕上がりスライドの比較を見れたのですが、思わず笑ってしまいました。デザイナーさんってすごいですね。
ネットワーク運用自動化(NetOps)の実運用: その後の改善・拡大、そして残課題について
概要ページにあるとおり、JANOG49 での発表にあったFirewallの設定変更の自動化の話の続編として、確認の自動化やCIについての話がありました。これらにご興味がある方は、アーカイブが公開されているうちにご覧いただければと思います。
とても気になっていたプログラムではありますが、スライドが全面的にSNS投稿禁止だったため、スライドの内容についてはブログ投稿も差し控えたいと思います。
その代わりこの場をお借りして御礼申し上げます。プログラム進行中、Slack に書いたことへのご返信をご登壇者から頂いたり、質疑応答の時間で再度取り上げていただいたりと、スタッフさん含めてご丁寧に対応いただきました。ありがとうございました。今後も続編の話があれば是非聞きたいと思います。
アーカイブ視聴予定
本記事では覚えているうちに記事にするため、リアルタイムに参加できたプログラムを中心に取り上げました。
他にも興味深いプログラムがあるため、アーカイブが公開されているうち(2023/08/18 18:00まで)に視聴しようと思います。主に以下のプログラムを中心に視聴予定です。
- 博多DCIサービスの実施によって、九州のインターネットはどう変わるのか? - JANOG52 Meeting in Nagasaki
- gNMIcを活用したマルチベンダー環境でのテレメトリ技術の実践 - JANOG52 Meeting in Nagasaki
- Yahoo! JAPAN アメリカデータセンタとネットワーク変遷 - JANOG52 Meeting in Nagasaki
- 一味違う!?JANOG52会場ネットワーク解説~AS運用を添えて~ - JANOG52 Meeting in Nagasaki
プログラム以外
今回の JANOG 自体で感じたことなどです。
ディスカッションパートの変化
これまで、質疑応答やディスカッションのパートではオンラインからでも発言する機会がありました(ただし現地マイクが優先)が、今回はありませんでした。
その代わり、Slack に書いた質問を司会の方に読み上げていただいて、登壇者にお答えいただいたことがありました。大変ありがたく思います。
コロナ禍で現地での行動に制約があった時期もありましたが、現在はだいぶ戻ってきているようです。元に戻ってきつつあるだけではなく、加えて Slack の活用度が上がってきたような気がします。本編でも触れましたが、登壇者の方から後日またはプログラム進行中にリアルタイムに Slack で返信を頂いたりしました。現地に行けなかったですが、お陰様で聞いているだけではなく「参加」してる感覚が得られました。
長崎国際テレビでの取り上げ
長崎国際テレビで今回の JANOG Meeting のことが取り上げられていたそうです。
【長崎】JANOGミーティング県内初開催 ネット課題を議論(長崎国際テレビ)
というタイトルで、動画と記事が見れていました(現在は閲覧不可)。
「セミナーではなくミーティング」という言葉が印象的でした。そうなんですよね。質問やコメントができるようなプログラムについては、なるべく発言できるようにしたいと思っています。
以前も、テレビに取り上げられた回がありましたが、地域のメディアに取り上げらえるのはうれしいですね。
おわりに
通常プログラムあり、ハッカソンあり、3時間のブチ抜きプログラムあり、と盛りだくさんでしたね。登壇者、スタッフ、スポンサーのみなさまありがとうございました!
参加された方でアンケートがまだの方はぜひこちらから。(2023/7/23まで)
アンケートの集計結果を公開しました! - JANOG52 Meeting in Nagasaki
次回 JANOG53 Meeting は 2024年1月に福岡県福岡市で開催予定とのことです。九州が続きますね。
参考
show int さんの動画
togetter
JANOG52に関連する7件のまとめ - Togetter [トゥギャッター]
私と JANOG のこれまで
- JANOG51 Meeting 参加レポート - てくなべ (tekunabe)
- JANOG50 Meeting in Hakodate 参加・登壇レポート - てくなべ (tekunabe)
- JANOG49 Meeting in Kagoshima 参加レポート - てくなべ (tekunabe)
- JANOG48 Meeting 参加レポート - てくなべ (tekunabe)
- JANOG47 Meeting in Fukuoka 参加レポート - てくなべ (tekunabe)
- JANOG46 Meeting in Okinawa 登壇・参加レポート - てくなべ (tekunabe)
- JANOG45 Meeting in Sapporo に参加して視野を広げる必要性を感じた - てくなべ (tekunabe)
- JANOG44 レポートその1【参加編】 - てくなべ (tekunabe)
- JANOG44 レポートその2【登壇編】ここからはじめよう、運用自動化 - てくなべ (tekunabe)
- [Batfish] JANOG43.5 で「ネットワークコンフィグ分析ツール Batfish との付き合い方」という発表をしてきました - てくなべ (tekunabe)
- JANOG43 レポートその1【参加編】 - てくなべ (tekunabe)
- JANOG43 レポートその2【登壇編】自動化の行き着く先は? - てくなべ (tekunabe)
- JANOG43 レポートその3【ハッカソン編】スタッフ兼参加者として - てくなべ (tekunabe)
- 【JANOG42】Ansible ネットワーク自動化チュートリアルを発表してきました - てくなべ (tekunabe)
- 【JANOG42】私にとっての「つなぐ、つたえる、つみあげる」 - てくなべ (tekunabe)
- JANOG41.5 で「もっと気軽に始めるAnsible」という発表をしてきました - てくなべ (tekunabe)
- JANOG41 Meeting in Hiroshima 参加メモ - てくなべ (tekunabe)
- JANOG41で「勉強会のフィードバックから得られた自動化への壁」という発表をしてきました - てくなべ (tekunabe)